大判例

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東京地方裁判所 昭和50年(ワ)6808号 判決 1978年1月23日

原告

重美産業株式会社

右代表者

増田敏男

右訴訟代理人

利穂要次

被告

日本リズマー株式会社

右代表者

佐久間朗

外三名

右被告ら四名訴訟代理人

北村哲男

主文

被告らは各自原告に対し、金一九二六万一二五〇円及びこれに対する昭和五〇年八月三〇日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決は、原告において金四〇〇万円の担保を供するときは、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。

事実《省略》

理由

一被告会社の目的に関する点を除く請求原因1の事実(本件契約の成立)及び同2の事実(連帯保証契約の成立)は、いずれも当事者間に争いがない。

二そこで、被告会社に本件条項の違背が存したか否かをみるに、被告会社が昭和五〇年二月ころまで原告からリズマート21の供給をうけていたが、同月末日ころ原告に対し、本件契約に基づく取引の中止方を申し入れたこと自体は当事者間に争いがないところ、<証拠>を総合すると、昭和五〇年三月以降原告と被告会社間においてリズマート21の取引は全くないこと、リズマート21はパネル部分とパターン部分から成つているものであること、被告会社は同月以降パネルを訴外出光石油化学株式会社から、またパターンの原反(原材料)を同帝人化成株式会社から、更にパターン及びパネルにリベツトを打つたものを同遠藤電子工業株式会社からそれぞれ購入していること、右パターンの材質はリズマート21のパターン部分のそれと同一であり、また右パネルの材質もハインパクトスチロールの含有量が多少異なるだけでリズマート21のパネル部分のそれと概ね同一(ちなみに右含有量は前者一〇〇パーセント、後者七〇パーセント)であること、そして被告会社はそのパネルとパターンとを合成して、リズマート21と材質はやや異なるものの商品自体の目的・機能からみて同一視しうる商品(商品名リズマー)を製造し、右遠藤電子工業株式会社から購入した製品とともにその販売を行つたことが認められ、反証は存しない。

右事実関係に、本件条項がリズマート21と同一商品の購入のみならず、その販売をも禁止していることをも合わせ考察すれば、被告会社の右取引行為は本件条項に違反するものと認めるのが相当である。

三よつて、被告らの抗弁につき、まず合意解除の主張について判断する。

<証拠>によれば、昭和五〇年二月末ころ当時被告会社の代表者であつた被告梶谷から原告代表者に対し、被告会社が資金的に苦しくなつたので、他からの援助を受けて別の商売をしたいことを理由として本件契約を合意解除したい旨の申し入れがあつたこと、これに対し、原告は、連帯保証人である被告梶谷、同安楽、同伊藤の出席のもとで話し合うこと、合意解除するならば、それまでにリズマート21を購入した顧客に対するアフターサービスを原告みずから確保する必要に迫られるので、顧客リストを提出することをそれぞれ求めたが、その履行のなされぬまま被告会社は同年二月二〇日締切の同月分の代金決済を約定期日よりも四日早い翌三月九日にすませ、以後原告に対してリズマート21の発注を行つていないことが認められるが、右事実によつても被告会社からの合意解除の申し込みに対する原告の承諾の事実は未だこれを認めるに足りず、他にこれを認めるに足りる証拠はないから、右抗弁は失当として排斥を免れない。

四次に、契約無効の抗弁について判断する。原告と被告会社間の本件契約中に本件条項の合意が存することは当事者間に争いがないところ、被告らは、右条項は独禁法二条七項四号及び一般指定の七、八に該当するから同法一九条に違反し、ひいては公序良俗に反する旨主張する。

しかしながら、元来私人間の契約の締結は自由であり、従つてそれに如何なる条件を付するかもまた原則として自由であつて、ただ独禁法はその立法目的、趣旨等に照らし、取引の相手方に対し、不当にその事業活動を拘束し、例えば正当な理由もないのに相手方の仕入先を制限する等の条件を付することによつて、自由経済社会における公正な競争を阻害するおそれのあるような取引方法を規制せんとするものであるから、ある取引における条件が独禁法に違背するか否かについては、単に仕入先制限等の条項が存するか否かという外形のみならず、それが右述の如き独禁法の精神に照らし不当性を有する不公正なものか否かという実質的・合目的的見地からこれを決すべきものである。

そこで右のような見地に立つて本件をみるに、<証拠>によれば、原告は資本金一二〇万円、従業員数約一五名で、資本金一〇〇〇万円、従業員数約一五〇名の増田製作所の役員がその株式を所有する同社の子会社であること、被告会社は資本金二〇〇万円(この点は本件記録上明らかである。)従業員数四、五名の会社であること、被告会社から増田製作所へリズマート21の製造依頼があつたので、同社は新たにその製造を開始することとなつたが、同社は自動車の金属プレスを業としていたので、系列子会社である原告を通して被告会社にこれを販売することになり、本件契約が締結されるに至つたこと、本件契約において、リズマート21の販売価格は原告が提示するが、時価に著しい変動のあるときには当事者間の協議でこれを変更しうる旨約されており、右価格については、昭和四九年一〇月ないし一一月ころ一平方メートルあたり一万二〇〇〇円から一万〇五〇〇円に値引された例があるか、著しく値上された例はないこと、被告会社が原告から購入したリズマート21を他に販売する価格及び販売地域については、契約上なんらの制限がないこと<証拠>中には再販売価格なる文言があるが、<証拠>によれば、これは増田製作所からみた再販売価格、即ち原告の被告会社に対する販売価格であることが認められる。)、契約期間は二か年であり、更新は当事者間の協議に委ねられていること、被告会社に契約違反があつた場合、原告は催告なくして契約を解除することができるとされてはいるものの、それに加えて被告会社からの違約金等の支払に関する規定等、契約の履行の強制を図るような規定は存しないことが認められ、これを左右するに足る証拠は存しない。

以上の事実関係によれば、これを前示独禁法の精神に照らしても、右に判示の程度の仕入先制限をもつてしては、未だ不当性を有する不公正な取引方法とは到底認め難いのであつて、即ち本件条項は独禁法二条七項四号及び一般指定の七、八に該当せず、従つて右条項を伴う本件契約は独禁法一九条に違背しないものである(なお付言するに、たとえ同法に違背した場合でも、それでもつて直ちに私法上無効となるものではない。)。

従つて、被告らの本抗弁もまた失当である。

五すすんで原告の損害について検討する。

<証拠>によれば、被告会社は昭和五〇年三月中に金七六六万円相当のリズマーを売却したこと(なお<証拠>には、同月二六日に富士電装に対し金一二八万円相当分を売却したとの記載がある。しかしながら、右<証拠>の記載内容はすべて同年三、四月の代金未回収分に関するものばかりであるところ、富士電装以外の未回収分については<証拠>にそれぞれ別個に売却等に関する記載があリ、かつ右<証拠>の記載に対応しているのに対し、ひとり富士電装分のみそれに対応する三月欄の記載が欠けているのであるが、他方<証拠>の四月欄の記載中には右の富士電装分の代金額、支払期日、支払金額が全く一致する記載があるから、結局富士電装に対する前記売却は同年四月になされたものと推認するのが相当である。)、その一平方メートルあたりの単価は金一万四八〇〇円であること、従つて被告会社は右三月中に合計五一七平方メートルのリズマーを売却したこととなること(一平方メートル未満切捨、以下同じ。)、同年四月中には被告会社は金一六八四万四四〇〇円相当分及び一一三平方メートル(なお、パターンのみの取引分は除外すべきである。以下同じ。)のリズマーを売却したこと、同月中の一平方メートルあたりの単価は金一万七八〇〇円を上回るものではないこと、従つて被告会社は同月中に合計一〇五九平方メートルのリズマーを売却したこととなること、更に被告会社は同年五月中に八六四平方メートル、同年六月中に二三一〇平方メートルのリズマーをそれぞれ販売したこと(右三月から六月までの総計は四七五〇平方メートルとなる。)、しかして原告が被告会社に対してリズマート21を供給していた当時の一平方メートルあたりの販売単価と製造元たる増田製作所からの仕入単価との差額たる粗利益は少なくとも一平方メートルあたり金四五〇五円であることが認められる。

そうすると、被告会社の前記債務不履行により原告の被つた損害額は、右四七五〇平方メートルに、リズマート21の一平方メートルあたりの粗利益額のうち原告主張の四〇五五円を乗じた金額である金一九二六万一二五〇円相当と認めることができる。

尤も、被告らは、原告と被告会社間の取引高は、取引開始後三か月目から激減し、昭和五〇年二月ころには二、三〇万円程度にすぎず、同年三月以降売上数量が伸びたのは原告以外の第三者からの仕入価格が低廉であつたことに起因するものであるから、同年三月以降の被告会社の取引高をもつて原告に生じた損害を算定する根拠とはなりえない旨主張し、<証拠>によれば、原告と被告会社間の取引高が被告主張の推移を辿つたことが認められる。

しかしながら、本件契約には買主の一定量注文義務に関する約定が存しないのみならず、原告と被告会社間の取引高が前叙のとおり変動していることに鑑みれば、右の如き一定性のない取引高に基づき被告会社の前記債務不履行により原告の被つた損害額を算定することは不合理であると解すべきところ、<証拠>によれば、原告と被告会社間の取引におけるリズマート21の単価は、最低で一万〇五〇五円、最高で一万二〇〇〇円であることが認められるところ、<証拠>によれば、被告会社のリズマーの平均販売単価は一万二一四三円ないし一万七八〇〇円であることが認められるから、被告会社は同年三月以降も従前の原告からの仕入単価を上回る単価で現に前記数量のリズマーを売却していたものということができること、その他本件条項の内容、損害の公平分担の原則等に照らして勘案すれば、本件条項に違反した取引量、即ち右三月以降の実際の取引高に基づき前記損害額を算定すべきものと解するのが相当である。従つて、この点に関する被告の主張は失当といわざるをえない。

六以上の次第であるから、原告の本訴請求は、被告ら各自に対し、前記金一九二六万一二五〇円、及びこれに対する本件訴状の最終送達日の翌日であることが記録上明らかな昭和五〇年八月三〇日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法九二条本文、九三条一項を、仮執行の宣言については同法一九六条一項を各適用して、主文のとおり判決する。

(小谷卓男 飯田敏彦 佐藤陽一)

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